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山口家庭裁判所 平成4年(少イ)1号 判決

被告人 大木浩司(昭45.8.3生)

主文

被告人を判示第一の罪について罰金10万円に、判示第二の罪について罰金20万円に処する。

右各罰金を完納することができないときは、それぞれ金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大信興業(平成3年3月ころから「大信工業」、同年7月ころから「有限会社大信工業」)の名称で、鳶工事、土木工事などの事業を営んでいるものであるが、

第一  法定の除外事由がないのに、神戸市○○区○○町×番所在の○○工事現場において、別紙犯罪事実一覧表(1)記載のとおり、平成3年1月13日から同年3月10日までの間、延べ129回、延べ約606時間にわたり、前記事業のため雇用する労働者であるA(昭和48年12月7日生)他3名が18歳未満であることを知りながら、同人らを午後10時から午前5時までの間の塗装工事のための足場組立ての補助作業などに従事させ、もって、18歳未満の者を深夜労働に使用し

第二  別紙犯罪事実一覧表(2)記載のとおり、平成3年9月2日から同月11日までの間、延べ12回にわたり、鳶工事及び土木工事などを業とする有限会社○○工業代表取締役Bとの労働者派遣契約に定める派遣就業の条件に従って同人が派遣労働者を労働させたならば、労働基準法62条1項に抵触することとなるのを知りながら、前記事業のため雇用する18歳未満の労働者であるC(昭和50年10月1日生)及びD(昭和49年11月6日生)を前記有限会社○○工業に派遣し、前記Bをして、同社が請け負った山口県柳井市○○××番地の×所在の○○株式会社○○建設現場において、右Cら2名を高さ5メートル以上の墜落により労働者が危害を受けるおそれのある場所で足場組立てに伴う資材の運搬作業などの業務に従事させ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官(平成3年12月25日付)及び司法警察員(同年10月9日付)に対する各供述調書

一  D及びEの検察官に対する各供述調書

一  下松市長作成の戸籍謄本(検甲21)

判示第一の事実について

一  被告人の検察官(平成3年10月18日付)及び司法警察員(同年3月19日付、同月20日付、同月28日付)に対する各供述調書

一  Aの検察官、司法警察員(平成3年3月18日付)及び司法巡査に対する各供述調書

一  Dの司法警察員に対する平成3年3月11日付、同月14日及び同月15日付各供述調書

一  Eの司法警察員に対する平成3年3月11日付及び同月14日付各供述調書

一  Fの検察官及び司法警察員(平成3年3月11日付及び同月14日付)に対する各供述調書

一  司法巡査○○作成の捜査復命書

一  下松市長作成の戸籍謄本3通(検甲17、24、27)

一  司法警察員○○作成の捜査関係事項照会書

一  神戸東労働基準監督署長作成の捜査関係事項照会について(回答)と題する書面

判示第二の事実について

一  被告人の検察官及び司法警察員(平成3年10月14日付及び同月15日付)に対する各供述調書

一  Gの検察官に対する供述調書

一  Bの検察官及び司法警察員に対する各供述調書

一  Dの司法警察員に対する平成3年10月21日付供述調書

一  Eの司法警察員に対する平成3年10月7日付及び同月21日付各供述調書

一  Hの司法警察員に対する供述調書(一通は謄本)

一  司法警察員作成の実況見分調書謄本

一  司法警察員○○作成の捜査報告書

一  徳山市長作成の戸籍謄本

(確定裁判)

被告人は、平成3年7月18日山口地方裁判所徳山支部で道路交通法違反の罪により懲役6月(3年間執行猶予、保護観察付)に処せられ、右裁判は同年8月2日確定したものであって、右事実は検察事務官作成の前科調書によって認める。

(法令の適用)

被告人の判示第一の各所為(労働者各個人別に、各稼動日数毎に一罪)はいずれも労働基準法119条1号、61条1項に、判示第二の各所為(労働者各個人別に、各稼動日毎に一罪)はいずれも労働基準法119条1号、62条1項、年少者労働基準規則8条24号、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律44条3項、4項にそれぞれ該当するところ、各所定刑中いずれも罰金刑を選択し、刑法45条前段及び後段によれば、判示第一の罪と前記確定裁判のあった道路交通法違反の罪とは併合罪であり、判示第二の罪はこれとは別個の併合罪の関係にたつので、同法50条によりまだ裁判を経ていない判示第一の罪について更に処断することとし、いずれも同法48条2項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で、被告人を判示第一の罪について罰金10万円に、判示第二の罪について罰金20万円にそれぞれ処し、右各罰金を完納することができないときは、いずれも同法18条によりそれぞれ金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

なお判示第二の罪については、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)44条3項及び4項が適用される事案であるところ、少年法37条1項3号の関係で疑義があるので付言する。

すなわち労働者派遣法44条4項は独自の罰則規定を設けたものであって、被告人には同法違反の罪が成立するから、右少年法の規定の適用はなく、家庭裁判所の専属管轄に属しないと解する余地がないわけではないので、この点について考察するに、労働者派遣法44条は、「労働基準法の適用に関する特例」を定めた条文であるところ、同条1項及び2項は責任主体としての使用者に関するみなし規定であり、同条3項は派遣元事業主における労働基準法令の規定に抵触する労働者派遣の禁止を定めた規定であり、同条4項は違反行為に関するみなし規定であって、これにより労働者派遣事業に伴って生じる労働基準法上の責任の義務主体及び違反行為を明確にして派遣労働者の保護に遺漏なきよう配慮したものであること、すなわち労働基準法は、労働者と労働契約関係にある事業に適用されるので、派遣労働者に関しては、派遣労働者と労働契約関係にある派遣元事業主が全面的に使用者としての責任を負い、これと労働契約関係にない派遣先事業主は責任を負わないことになるが、派遣労働者に関しては、当該労働契約の当事者ではない派遣先事業主が業務遂行上の具体的指揮命令を行うという特殊な労働関係にある(労働者派遣法2条1号)ので、派遣先事業主に対し使用者としての責任を問い得ないこととすると、派遣労働者の保護に欠けるおそれがあり、労働者派遣という一般の労働関係とは異なる特殊な就業形態に着目して、派遣労働者の法定労働条件を確保する観点から労働基準法の適用について必要な特例規定が設けられたこと、そして、労働者派遣法44条3項は前記のとおり派遣元事業主における労働基準法令の規定に抵触する労働者派遣の禁止を定めた規定であって、同条4項は、右規定に違反したときは、「当該派遣元の使用者は、当該労働基準法令の規定に違反したものとみなして、同法第118条、第119条及び第121条の規定を適用する。」と規定して、同法上独自の罰則規定を設けることなく労働基準法上の罰則規定が適用されることとしており、そこに成立する罪は、みなされた労働基準法違反の罪であるといわざるを得ないこと等労働者派遣法の趣旨・目的、その規定の体裁並びに派遣元事業主が派遣先事業主に適用される規定に違反したとみなされたときに適用される法令の内容などに徴すると、派遣元の使用者である被告人に成立する罪は労働基準法違反の罪であると解するのが相当である。

そうすると、判示第二の罪については、少年法37条1項3号により家庭裁判所の管轄に属するといえる。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 山崎勉)

(別紙)

犯罪事実一覧表(1)

番号

稼動日時

(平成3年 月 日)

労働者氏名・生年月日及び深夜労働時間

(昭48.12.7生)

(約 時間)

(昭49.11.6生)

(約 時間)

(昭48.5.10生)

(約 時間)

(昭49.10.13生)

(約 時間)

合計

(約 時間)

1.13

10

1.14

10

1.15

1.16

10

1.17

4.5

4.5

4.5

13.5

1.18

15

1.19

12

1.22

10

1.23

12

10

1.24

4.5

4.5

4.5

13.5

11

1.25

18

12

1.26

18

13

1.27

15

14

1.28

12

15

1.29

15

16

1.30

15

17

1.31

12

18

2.1

12

19

2.2

12

20

2.3

;

12

21

2.4

12

22

2.5

15

23

2.6

12

24

2.7

15

25

2.8

15

26

2.11

16

27

2.12

16

28

2.13

16

29

2.14

20

30

2.25

24

31

2.26

24

32

2.27

33

3.1

24

34

3.2

5.5

5.5

5.5

5.5

22

35

3.4

20

36

3.5

24

37

3.6

20

38

3.7

3.5

3.5

3.5

3.5

14

39

3.8

16

40

3.10

4.5

4.5

4.5

4.5

18

総労働回数 延べ129回

総深夜労働時間 延べ606時間

(別紙)

犯罪事実一覧表(2)

番号

派遣稼動年日時

(平成3年 月 日)

派遣労働者

9.2

C・D

9.3

9.4

同上

9.5

同上

9.6

C・D

9.7

9.10

C・D

9.11

同上

総派遣・稼動回数 延べ12回

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